橋本治 -HASHIMOTO, Osamu

窯変 源氏物語 [1-14巻]

橋本治・著 中公文庫 1996年完結(単行本1993年)

光源氏の一人称。紫式部(女)が書いたものを橋本治(男)が、男性の立場から書いたもの。原典のプロットににかなり忠実。「近代自我」の騒ぎの最中では、1千年前の小説は、このように訳すのが正しいかもしれない。源氏没後は勿論語り手は変わる。

写真集もある。これもかっこいい。

源氏供養 (上・下)

橋本治・著 中央公論 1993-1994年

「婦人公論」1991/may-1994/feb.連載

「窯変源氏物語」執筆のための勉強の余り?余りじゃないか、余熱?とにかく、勉強し過ぎか、分厚い二冊組。つまり、「窯変源氏物語読本」、「メイキング・オブ・窯変源氏」?「源氏物語拾遺集」か。勉強し過ぎて、「窯変」だけではもったいなくなったと思われる。そんなことないか。

これは面白かった!何度も読んだ。「感想を書こう書こう」と思いつつ、あまりの面白さに感想が書けないかと思って放置していた。

婦人公論がどういう雑誌か知らないんですが、「女性自身」みたいなの?違うか。勝手に「ハイミドルの有閑マダム」向けと断定。そのためか、本書はとてもとても優しい語り口。何しろのっけから「丁寧語」で書いてある。ここでまず、分厚い二冊組に対する焦りを緩和。分厚いと云っても、雑誌連載ですから、読み切りが短く、閑話休題の連続という感じで読み易い。

その割には、内容が「示唆的」で盛り沢山。長大な「窯変」執筆中に著者が感じ取った「問題点」、「疑問点」を開陳し、それについての推論を展開。「有閑マダム」向けだけに、予備知識から丁寧に説明してくれるのも有難い。

一人称の「窯変」の宿命か、「窯変」中では「本文」には明示されていない細部まで推論し、確定しなければならなかった。その「窯」の内側、推論過程をばらしてくれているわけです。

この論旨展開は広範な知識を背景としており、絶妙に説得される。無理が感じられず、大変好感が持てる。私にとっての「ベスト・源氏本」なのです。

因みに、田辺聖子の「源氏紙風船」とは全く違います。「紙風船」は「あとがき」、「独り言」。言わば源氏物語をお題にした「エッセイ」です。

これに比すれば「源氏供養」は、「窯変」を読まなくても良い。「源氏物語を読んで問題点を見つけ、考察しました」と云う本です。

ところで、「婦人公論」は本当に「ハイミドルの有閑マダム」向けなのか?

30th/7/2001